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星川 淳さん「地球生命圏の大半を巻き込むメタ危機としての核問題に取り組む先行者」

星川 淳(ほしかわ じゅん)
作家・翻訳家
著述の傍ら、2005年から5年間、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの事務局長を務めるなど、「現代の祈りは行動すること」を実践し、現在は市民活動支援のための民間基金(一般社団法人)アクト・ビヨンド・トラスト代表理事。
アクト・ビヨンド・トラスト
http://www.actbeyondtrust.org/
アシタノアシアト
http://hoshikawajun.jp/

核ストレスを見つめて
ジョアンナに最初に注目したのは、1990年初版の拙著『地球生活』(徳間書店、95年に平凡社ライブラリーで復刊)で、核兵器と原子力を含む核技術の利用が現代人にもたらす根源的・中核的ストレスを「核ストレス」と捉えたときだった。1970年代から80年代にかけて世界的な盛り上がりを見せた反核運動と、チェルノブイリ事故を受けた反原発/脱原発運動の中でも、人間だけでなく地球生命圏の大半を巻き込むメタ危機としての核問題を真正面から見つめた論者は多くなかった。そんな中、「核の公案」に取り組む姿勢においてジョアンナは一番近い先行者だった。

その後、屋久島から家族で刊行したディープエコロジー年報の3冊目『LIVEGreen地球生活書3』(ほんの木、1992年)で詳しく紹介するとともに、ジョアンナらによるディープエコロジーの手引き『地球の声を聴く』(同、1993年)と、ジョアンナ自身の『世界は恋人 世界はわたし』(筑摩書房、1993年)を続けて監訳し、核問題に向き合うアプローチを環境問題全体に敷衍するジョアンナの実践と思索に学び続けた。ディープエコロジー・ワークショップ〈全生命の集い〉も屋久島で2回開催した。

それ以来、直接のご縁はないものの、ジョアンナが世界認識の中心に据える「相互依存的連携生起(dependent co-arising)」(仏教の「因縁生起」の現代的言い換え)と並んで、いまも心の奥底に打ち込まれたままの基準軸が「核の守護倫理」(Nuclear Guardianship Ethic)だ。核兵器や原発への賛否を超えて、核廃棄物という究極的な負の遺産を生み出してしまった責任を共有しつつ、人類社会全体、とりわけ核技術の利用国で、その責任をどう形にするかを深く問い、答えを探ること――。ジョアンナは地表近くに回収可能な方法で保管し、数千年から数万年の射程で生態系への影響を抑えながら守り抜く、新しい文化と伝統を育むことを提唱していたが、東電1F事故をどう受けとめただろうか。 『アクティブ・ホープ』日本語訳によって、ジョアンナの問いを共有する人の輪がさらに広がりますように!